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インカレ特集〜四年生の想い・黒川帆花〜

 

『そのメダルを首にかけるのは今じゃない。2年後、私が自分の手で獲ってみせる。そして貴方の首にかけてあげるね。』

これは私のヒーローとの約束です。

2年前、西が丘。私の首に金メダルをかけようとしてくれたその手を、わざわざ避けて私は言いました。失礼極まりなかったなと思うけど、これが私の決意表明でした。

この日から、西が丘のピッチに立つことが、私の中の揺るぎない夢となりました。

人間黒川帆花の頭の中は基本的にこんな感じです。

・キャリアの差(入部当初、周囲との競技歴の差は5倍あった)を知っていてこの世界に飛び込んだのは私の責任。そこで勝とうが負けようが私の責任。

・自分の夢のために生きて、たとえ途中で身体がぶっ壊れようと、人生めちゃくちゃになろうと、それでいいじゃんか。

・同じピッチに立ったらそこが勝負。闘う相手がどこの誰だろうが私の知ったことじゃない。じゃあやると決めたからには何に阻まれようと自分の夢からは絶対に目を離しちゃいけないんだ。

まあ一言で言えば、夢に対する執着心が病気レベルです。

私はいつだって、未来の自分を信じているし、夢は大っぴらに人に語るようにしています。そうすれば、現実問題から逃げることなんてできなくなります。逃げるなんて、未来の私を信じてきた過去の自分にあまりにも失礼だから。夢を見ることって、ちょっとやそっとの生温い覚悟じゃできないことだと思うんです。だから私は、自分のやりたいと思う事を1番大事にしているし、やるからには最後まで自分の信念を貫き通すようにしています。

私がここまでブレない信念を持つのには理由があります。「ヒナちゃん」の存在です。

私の思考の原点は、そこにあります。

ヒナちゃんは、高校2年生です。

が、会話はほとんど成立しません。

やっと平仮名が書けるようになりました。

お風呂だって1人じゃ入れないし、

トイレだってついていかないとダメ。

ひなちゃんが家に帰ってくる時間までには帰らないと、

着替えさせないと、ごはん食べさせないと

おまけに我が家は毎朝NHK。お陰様で歴代の歌のお姉さんも最近流行りのあの歌も全て網羅しています。

勝手に家を飛び出して行方不明なんてことも日常茶飯事。我が家では、家に帰っても

「介護かコノヤローΣ(゚дlll)」

というような生活が待っています。

風呂くらい1人でゆっくり入らせてくれ。

買い物くらいのんびり1人でさせてくれ。

家の中くらい座らせてくれ。そんな生活。

そうです。ヒナちゃんは私の妹で、病気です。医学的診断名は点頭癲癇(ウエスト症候群)そしてレノックスガストー症候群。難病です。

ヒナちゃんは、赤ちゃんの時から発作を止めるための薬を大量に飲み続けています。発作が起こると、叫びます、倒れます、痙攣します、失禁します。

発作の度に脳波は激しく乱れ、身体は毎度熱を帯び、夜中は止まらない発作に何度も何度も目を覚まします。

「本当ならば、もう死んでいてもおかしくはない」そういう病気です。

世界にはいろんな病気がありますよね。心臓に穴が空いている子、5歳の誕生日を迎えられない子、実際に妹の友達が亡くなったという話もよく聞きました。

普通に勉強して、普通に恋をしたり習い事をしたり、大きくなったらいつか結婚して、新しい家族を作って。そんな当たり前が、ヒナちゃんにはありません。それを羨ましく思うことすら無いでしょう。

だから、この子たちの分も生きようって、小さい時から思って生きてきました。

でも、それを最近やめたんです。

自分の身体は1つしかなくて、涙も汗も自分の分だけしか流せないんだってことに気づいたからです。

ヒナちゃんは可哀想なんかではありません。自分の勝負から目を背けず(考えられないだけなんですけど)闘っている。

だから私も、自分の夢を生きることに命をかけようと思うようになりました。

真冬の真っ青な空の下、そこでみんなと顔をぐしゃぐしゃにして笑いながら抱き合って喜ぶ。

どうしてもこの瞬間だけは、絶対欲しかった。

これだけは、たとえ骨が粉砕しようと皮膚がひきちぎれようと、死んでも絶対に譲らない。2年前のあの日からこの信念を曲げたことはありません。

それに、私がもっと選手として成長すればヒナちゃんが足を運ぶ場所や目にする景色が増えていくかもしれない。ヒナちゃんはともだちが好きだから、みんなにヒナちゃんを知ってもらえるかもしれない。

だから私はア女をスタート地点として、この先のどんな夢にだって命をかけて生きていくつもりです。

私はア女が大好きです。

かわいいのに頼もしい後輩達には、たくさん情けない姿を見せたと思うけど、その度に背中を押してもらいました。ひとりひとりがそれぞれの芯を持っているから1人残らず私の尊敬の対象です。

そして同期。

お互いの悪いところまで知っているところも好きだし、毎日毎日IQ3の超低レベルな会話するところも、なんか毎年メンバーが増えていくところも好き。

どんな崖っぷち的状況でも楽しめるメンタルも、散々振り回してきたのに懲りずに私を信じてくれる寛大さも、「強さ」です。

私のやりたいことは、こいつらがいないとできないと思えるんです。

ひとりひとりの生き方が最高にかっこいい、そんな誇れる仲間たちです。

ヒーローとの約束を果たす為、

最後に大好きなみんなともう一走りしてきます。

自分の夢の結末を見に行こうと思います。

ヒナちゃんも、観に来てくれるといいな(あ、1人で来ちゃダメだよ〜)って思います。

鬼長い文章を最後まで読んでいただきありがとうございました!!


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チームメイトが練習を終え帰る中
グラウンドに残りボールを蹴り続ける影がある。
それが、彼女だ。
夢を語るのには、勇気がいる。
子供の頃には胸を張って言っていた言葉が
簡単に口にできなくなったのは、なぜか。
口にした瞬間、逃げられなくなるから。
口にした瞬間、言い訳が出来なくなるから。
それを、知ってしまったから。
だからこそ、
彼女の言葉は、心の奥にある熱い気持ちを蘇らせ
彼女の行動は、見る人の心を奮い立たせる。
彼女が点を決めれば、チーム全体が歓喜に包まれる。
これが、彼女の全てを表しているのだろう。
彼女が約束を果たす瞬間は、すぐ目の前に迫っている。

阪本