🌟高岡大翼(タカオカ ダイスケ)
⚽️ピジョンFC → 広島県立広島皆実高等学校
「長老、試合を締めてくれ~」
応援席から後輩や同期の声が聞こえてくる。
(浪人をしてア式にきた僕は、現在23歳。学生ではチーム最年長であることから、”長老”と呼ばれたりしている。試合では、リードを守りきりたい時に”締め”の役割として起用されることが多い。)
関東リーグ第20節、東京国際大学戦。
後半42分(2-1)、負傷したCB工藤に代わり、ピッチに送り出された。
ピッチに入る前、ある感覚がよぎった。
「ここで勝ちきれば優勝する。」
何の根拠も無かったが、なんとなくそんな気がした。
だからこそ、自分がこの組織に浪人してまで入ってきた想いが込み上げてきた。
「守りきれなければ、ここにいる意味はない」
応援してくれる仲間の姿を見ながら、責任を背負いピッチに入った。
試合展開は、相馬・岡田のゴールで逆転したものの、試合終盤で1点リードの状況。相手にかなり押し込まれていた。
コーナーキックを取られ、ピンチを迎える。
相手のヘディングに食らいつき、自分がブロックしたボールは相手の目の前にこぼれた。
もう祈ることしかできなかった。
「頼むから、入らないでくれ」
こんな絶体絶命の状況で、最後にチームを救ったのはGK小島だった。
相手のシュートを足でかき出し、大ピンチを防いだ。
それから数分後、試合終了の笛が鳴り、勝利。
その時の心境は、嬉しさよりも、勝ちきれた安堵の方が大きかった。
そして、応援団へ挨拶しようとした時、歓喜の知らせが届いた。
みんなで抱き合い、紺碧の空を歌い、優勝に酔いしれた。
帰りのバスの中、興奮の中なかなか眠れず、この試合や今シーズンの情景が蘇ってきた。
振り返ると、結局、試合を勝たせ、優勝に導いたのは、得点した岡田・相馬、守りきった小島だった。
現段階で、町田内定の岡田はリーグ得点王、名古屋内定の相馬はリーグアシスト王、大分内定の小島は早稲田のゴールにことごとく立ちはだかった。
彼らの活躍がなければ、間違いなく優勝は無かっただろう。
でも、優勝できた要因はきっとそれだけじゃない。
関東2部の立正大学に完敗し、絶望の天皇杯予選から始まった今シーズン。監督交代から新体制となり、チームスローガン”ドライブ”をもとに、
「タイトル奪還」と「ア式の注目度を高める」という2つの大きな目標にチーム全員で突き進んできたプロセスがある。
そして、そのプロセスが成り立つために、原動力になったのは”信頼”だったんじゃないかと思う。
度重なる怪我で今季絶望となり、本当は一番辛いはずなのに、チームの勝利のために自分にできることに徹する蓮川。
3年生までの苦悩を払拭し、新人監督という責任を背負い、チームの規律を守る学。
早稲田の主務になる決断をし、チームのために一番仕事をこなしながらも、苦労を感じさせずにサッカーする秋葉。
学連で練習欠席が多い中でも、Bチームの成長のために試行錯誤する榎本。
「のびのび3年生」と言われていても、優勝した時に涙を流すほど、ア式の重圧を背負って戦ってくれる3年生。
試合に出れない悔しさやもどかしさがありながらも、大きな声で応援してくれる2年生。
自分たちにできることを必死に考え、サッカー以外にも仕事や分析、地域清掃に励む1年生。
選手のために、自分の時間を犠牲にしてまで、ケアやマネジメントに尽くすトレーナーやマネージャー。
ここには書ききれないほど、それぞれの立場で、いろんな想いを持ち、悩みや葛藤の中でも、必死に前に突き進もうとする部員がいる。
そんな姿が”信頼”を生み、個人とチームが繋がっていった。
「このチームで勝ちたい」「あいつのためにがんばりたい」そういう想いが、チームの一体感を作り、関東リーグ優勝という結果を掴んだ。
試合に出て活躍するメンバーだけが主役じゃない。
それぞれの立場で一人一人が自分の存在意義を模索する。
お互いそんな姿を見て学び、刺激を受け、葛藤し、サッカー選手として、一人の人間として成長していく。
プロのクラブでも、サークルでも、社会人サッカーでもそんな経験はきっとできない。
これこそが、大学サッカーの魅力であり、可能性なんじゃないかと思う。
この4年間、
1年で、関東リーグ1部優勝。2年で、2部降格。3年で、2部優勝・1部昇格。4年で、1部優勝。
おそらくア式蹴球部の中でも、今後「歴史に残る4年間」を経験させてもらった。
結果だけ見ると、すごい経験をしてきたんだね、とよく言われる。
でも、僕はその結果に辿り着くために、一緒に過ごしてきた素晴らしい同期や先輩・後輩とのプロセスを今後の人生の宝物にしたい。
そして、残り約1ヶ月。
最後引退する日に、
「浪人してでも、早稲田に来て良かった。」
と、胸を張って言えるよう、悔いのないプロセスと納得する結果で、ア式での4年間を締めくくりたい。