🌟直江健太郎(ナオエ ケンタロウ)
⚽️大宮アルディージャJr.ユース → 早稲田実業学校高等部
「重圧」
2014年4月、都内のあるグラウンドで行われた関東大会東京都予選、早実対帝京。逆転に次ぐ逆転で4-4のハイスコアでタイムアップし、勝負の行方はPK戦に委ねられた。
結果は4-5。先攻の一番手を任された私だけが失敗し、チームは敗れた。
試合後、多くの方々が声をかけてくれた。
「PKは残念だったけど帝京相手によく闘ったよ!」「ナイスゲーム!」
違う。そうじゃない。
勝たなきゃいけなかった。早実サッカー部は、毎年どんな選手が入部してくるか素質はおろか、人数すらわからない。それ故スタメン内でもサッカー経験値に差があるようなチームだ。そのチームが帝京をあと一歩のところまで追い詰めた。にも関わらず最上級生である私がそれをふいにしてしまった。
この時初めて組織を背負う責任と重圧を知ったような気がする。同時にそれらを恐れるようになり、情けないくらいに弱気になっていた。
「弱さ」
それから1年後、ア式への入部が決まった。
当時はプロになりたいから、というのが一番の理由だった。プロになって、これまでのサッカー人生でお世話になった方々に成長した姿を見てもらいたい、そんな思いでア式の門を叩いた。
だが、私という人間は自分が思っていた以上に脆く、弱かった。
別に練習や試合で手を抜いているわけでもない。多くの時間をAチームとして活動している。なのに試合に出られない。
「自分と向き合えない」、これが私の一番の弱さだった。入部してから3年間、何一つとしてチームに貢献できなかった。2年時、多くの時間をAチームで活動し、リーグ戦でメンバー入り、出場を果たすもチームは2部リーグ降格。3年時、今度は逆にチームは1年での1部復帰を果たすもリーグ戦での出場は無し。プロになりたい、成長した姿を見てもらいたい、想いは持っているのにそれを形にできない。
この弱さに向き合わせてくれたのは他でもない、同期の存在だった。
忌憚なく私の弱さを指摘してくれる同期もいれば、寄り添って話を聞いてくれる同期もいた。はたまた口数こそ多くないが自身の課題克服のために誰よりも努力を重ねる同期もいた。その全てが自分を変えてくれた。置いていかれるわけにはいかない、と。
同期と過ごす時間が長くなるにつれ、私を変えてくれた同期のために何としても結果で応えたい、という思いがより一層強くなっていった。
「意味」
迎えたラストイヤー。前期リーグの大一番、首位早稲田対2位専修の首位攻防戦。
その日先発起用された自分の名前がテーマとして掲げられ、「サッカー人生をかけて闘ってこい」と監督から送り出された。
試合前、悪夢が蘇る。自分のせいで皆の奮闘を無駄にしてしまった4年前のあの光景が映し出された。
こんな時、昔の私なら「自分のせいで負けないようにしないと」と考えていただろう。ミスをしないように、迷惑をかけないように、と消極的なプレーを選択していたはずだ。でもこの時はそんな考えは一切なく、ただ「俺が勝たせる」、これしか頭になかった。弱さと向き合わせてくれた同期の存在があったから。
無我夢中でボールを追いかけ、とにかく走った。「いけるとこまでいこう」と送り出された後半も必死でボールに食らいついた。
早稲田リードで迎えた後半44分。相手ゴール前でボールを受け味方の動きでフリーになり、迷わず右足を振り抜いた。攣っていた右足から放たれたシュートは力こそなかったが、ゴール左隅に吸い込まれていった。
その瞬間、それまでの苦労や悔しさが一気に報われたような気がした。かつての重圧、突きつけられた弱さ、あれには意味があったんじゃないか、と。
このゴールから数分後、試合終了のホイッスルが鳴った。入部から約3年、ほんの少しだけチームの力になれたと思った。
重圧に押し潰され自分と向き合えない弱さを突き付けられ、もがく苦しみながら少しずつそれを克服し、ようやく一つ結果を出すことができた。
本物の重圧を教えてくれた試合、弱さを突きつけてくれたア式というチーム、そしてその弱さと向き合わせてくれた同期。何一つとして欠けてはいけない大切な存在。辛い経験は忘れてしまえばいいし、自分の弱さなんて見て見ぬふりをしてしまえば楽だ。でもそれらと向き合うことで人は一回りも二回りも大きくなれる。自分に自信を持てる。身を持ってこのことを感じられたのは私にとって何事にも変え難い大切な財産だ。
“早稲田の選手”として過ごした7年間、そして17年間のサッカー人生があと約1ヶ月で終わりを迎える。
サッカーの試合でアディショナルタイムが正念場であるように、私のサッカー人生も今がまさに正念場。
自分たちの代で3年ぶりの関東リーグ制覇を成し遂げた。でもまだ足りない。最後の最後まで自分と向き合い、チームと向き合う。獲れるタイトルは全て獲る。大好きなこのチームで一回でも多く、紺碧の空を歌いたい。
みんなで見に行こう、最高の景色を。