🌟秋葉遼太(アキバ リョウタ)
⚽️練馬区立開進第一中学校 → 東京都立駒場高等学校
「軸トレ」が早稲田を変えた。
早稲田大学ア式蹴球部では今年からトレーナーを務めてくださっている有田先生のご指導で練習前に「軸トレ」を行っている。「軸トレ」とは体の軸を入れるトレーニングのこと。これをやることで体幹が安定し、パフォーマンスがアップする。この「軸トレ」の効果あってか、早稲田はここまですこぶる好調で、関東リーグでは首位を走っている。自分の軸はねじれていないか、しっかりと入っているか、練習前自らの体の軸を確認する部員の姿は今や早稲田の文化となりつつある。
「なぜ大学でサッカーをするのか」
大学サッカーが抱える様々な課題が、石灰で書かれたグラウンド。ボールを追い、走りつづけ、汗を流す選手たち。走れば走るほど、蹴れば蹴るほど、課題は少しずつ消えていく。その先に選手たちはどんな景色を見るだろう。
これは早稲田大学ア式蹴球部が出演させていただいた大塚製薬さんのCMのコンセプトメッセージ。なぜ大学でサッカーをするのか。たしかにそうだ。高校時代のトップレベルはプロの世界へ進み、海外に目を向ければ自分たちより下の世代のスター達が国を背負って戦っている。はたまた大学ではサークル、バイトなど大学生活を謳歌している人、夢に向かって勉強や留学をしている人もいる。そんな中なぜわざわざ大学で、わざわざサッカーなのか。答えは人それぞれ。今日私の順番になるまで続いてきた部員ブログでも部員それぞれの「なぜ」が赤裸々に語られている。私自身もその「なぜ」と4年間向き合い、答えを見つけては見失い、また探してを繰り返してきた。
こうしたことを考えていると、ふとある疑問が浮かんだ。なぜ、「なぜ大学でサッカーをするのか」と問われるのだろう。例えば中学、高校でなぜサッカーをするのかを問われる、もしくはそれを考える機会はほぼない。サッカーが好き、サッカー選手になりたい、全国大会で優勝したい、これくらいだろう。なぜと問われること自体大学サッカー特有の現象だ。
「なぜ」と問われる理由。それは大学サッカーが大海原で未だに行く先の定まらない迷える船だからだ。社会という大海の中で大学サッカーという船にどんな魅力があり、どんな景色を私たちに見せてくれるのかはっきりしていない。だから人はなぜ大学サッカーと問うのではないだろうか。
それなりの目的と自分なりの覚悟を持って大学サッカーという船に乗り込んだ私たち自身も乗ってから気づく。なぜ大学サッカーなのか、この船はどこに向かっているのかと。誰も何も教えてくれない。羅針盤を決めるのは自分自身。時に暴風雨にさらわれ一度定めた目標を見失う。何度も何度も「なぜ」の問いを繰り返す。その中で次第に自分自身のこれだという「軸」が決まり、行く先が見えてくる。屋台骨である軸が定まった船は雨風にびくともせずに行く先にまっすぐ進むことができる。あの「軸トレ」で体がぶれにくくなったように。
「なぜ」と問われるのはそれだけ大学サッカーが、未知なる可能性をもっているからであり、「なぜ」と問われること自体が大学サッカーの価値にほかならない。「なぜ」と自問自答することで個人個人が軸を持つことができる。そして十人十色の軸を持った個人が集まってそれぞれの想い、考えをピッチで表現する。軸を持った人は強くて魅力的だ。そう、大学サッカーはとても魅力的なのだ。
私は2年時の冬に主務になる決断をした。私の中で一つの軸を決めた瞬間だった。そして選手兼主務という立場から大学サッカーの持つ魅力や価値、そして課題と向き合ってきた。しんどくて苦しくて何度も折れそうになった。それでも一度自分が決めた道を信じた。早慶戦で1万8000人の観客を集めたことも、関東リーグのピッチに立ったことも、大学サッカーの魅力をより多くの人に届けたいという一心で取り組んできた一つの成果だ。そんな刺激的で充実した生活もあと1か月半で終わりを迎える。
引退が近づくにつれ、後輩やア式蹴球部に何を残せるのかを考える機会が増えた。その中で私は文化を残したいと思っている。自分が4年間やってきたこと、学んできたこと、作り上げてきたことを文化として継承したい。文化とは日頃の積み重ねが作る無意識の力だ。誰に言われるでもなく練習前ひたすら「軸トレ」に励むあの光景が文化となっているように。そしてそれは日頃から「なぜ」の問いを繰り返し、「これ」という自らの軸を持った人間が集まって日々を積み重ねていく事で醸成されていくものではないだろうか。個人個人の軸が集まって組織の軸となり、それが文化として継承されていくのだ。そうした太くて濃い文化を持つ組織に早稲田大学ア式蹴球部はなってほしい。大学サッカーそして日本社会全体をリードする存在となるために。
残り1か月私はどんな文化を後輩に、そしてこの組織に残せるだろうか。自分自身の軸はぶれていないだろうか。なぜ大学サッカーを選択したのか、今胸を張ってしっかり答えを言えるだろうか。残り少ない時間の中でまだまだまだやらなくてはいけないことは多い。
そして私が乗り込んだ大学サッカーという船が最後にたどり着く場所には、どんな景色が広がっているだろうか。今から楽しみで仕方がない。そしてもちろんその場所を決めるのは間違いなく私自身だ。どんな荒波も一緒に乗り越えてきた18人の信頼する同期とともに、最後に最高の景色が見たい。