ア式蹴球部の第一印象は「凄い」の一言だった。
大学生って凄い。
自分も先輩方のようになりたい。
そう心に誓った。
当時の私は、何を思って凄いと感じたのかわからなかったが、
今考えると部員全員の本気がピッチに溢れていたからだと言える。
そんな私がどんな人間だったかと言うと、他人にあまり興味を持たず、干渉しない。
どこか自分さえ良ければ良いというような考えで、自分の人間性など考えたこともなかった。
そもそも、自分が人として未熟であることに気付いてもいなかったのだと思う。
正直、人として底辺だっただろう。
ア式蹴球部はそんな自分を変えてくれた。
入部当初は、ただがむしゃらに目の前のことに取り組む事しかできなかった。
そのくらいしか自分にできることを見つけられなかった。
そんな時、私は大怪我をしてしまった。
サッカーができなくなった自分が悔しくて悔しくてたまらなかった。
怪我と向き合うと、怪我をしたのは自分の甘さが引き起こしたのものだと気付き、
悔しさが自分への苛立ちに変わっていった。
確実にチームのお荷物だっただろう。
チームに対してプラスのエネルギーを与えることができなかった。
自分の無力さを痛感した。
そんな無力な自分に苛立ちを覚えた。
しかし、この怪我を機に、自分の中で少しずつ変化が起きていった。
中高と怪我をしたことがなった私にとって初めての怪我。
怪我と向き合い、身体と向き合い、弱さと向き合い、そして、チームと向き合った。
サッカーができないことが、これほど辛いとは思わなかった。
そして、当たり前は当たり前ではないことに気が付いた。
多くの壁にぶち当たり、これほど多くのことを考えて生活したことは今までなかった。
それは今まで、本当の意味で自分や仲間、サッカーに向き合えていなかったからだと思う。
サッカーを本気で取り組まなければ、サッカーに失礼だ。
心を改めて毎日を大切に送っていった。
そして、怪我から復帰し、やっと掴んだ関東リーグスタメン出場の権利。
自分の弱さを知り、向き合ったからこそ試合に出られたのだと思う。
やはり人間力は大切だ。
今まで自分が見落としていたものの大切さを思い知った。
だが、試合に出たのは二、三年生の時の四試合のみ。
もっとチームのためにサッカーがしたかった。
もっとチームの勝利に直接貢献したかった。
これが本音だ。
私は自分の思い描いていた四年間を送ることはできなかった。
後輩たちは、私がア式蹴球部の先輩方を見て感じたような感情を抱いたのだろうか。
とても答えが怖くて聞けない。
自分で立てた誓いは何一つ達成できていない。
チームの誓いも果たせていない。
ア式蹴球部に恩返しができていない。
四年生として下に何も残せていない。
四年生として最低最悪の姿だ。
想いがあっても行動が伴わなければ意味がない。
口だけだった。
本当に不甲斐ない自分に苛立ちを覚えている。
できることなら一年生からやり直したい。
やり残したことが多すぎる。
正直未練たらたらだ。
そんなことはできるわけがなく、残り九日で引退。
自分のことはどうでもいい。
このままでは終わらない。
最後だけだったと言われてもいい。
二部に降格させるわけにはいかない。
『残留』
自分たちに残された道はただ一つ。
残り二戦、ア式蹴球部の未来のためだけに本気で闘うことを誓う。